習近平が権力の集中化を急ぐのはなぜか?
中国はソ連のように崩壊しないのか?
中国専門ジャーナリスト福島香織が語る「チャイナリスク2017 衝撃の真実」
胡錦濤政権時代まで続いている軍区制[中国人民解放軍の地域別統合作戦指揮組織で、主に七軍区に分けられる]は事実上、軍閥化し党中央総書記[中国共産党中央委員会総書記。中国共産党と国家の最高指導者。現在は習近平]にさして従順ではない。軍閥化しつつある軍区制を解消して、指揮権を党中央軍事委員会[中国共産党の最高軍事指導機関。中国人民解放軍を指導する]主席でもある総書記自身に集中して末端まで掌握すれば、総書記を核心とする党中央の専制は絶対のものになる。だから習近平政権が最優先した改革は経済改革ではなく、軍制改革となった。
胡錦濤も軍区制が腐敗と不穏の温床であることに気づき、軍区制から米国式の戦区制に転換する軍制改革を試みたが、江沢民[一九二六~/ポスト鄧小平の第五代中国国家主席。上海閥のトップとして君臨]派と軍部の抵抗により挫折している。胡錦濤の軍制改革の目標は、共産党私軍である解放軍の国軍化だったが、習近平の改革の目標は解放軍と党中央の一体化、完璧な党軍化、あるいは軍事政権化といえる。
習近平の軍制改革については第二章で詳述するが、習近平は権力の座を禅譲されてから
「中国を旧ソ連のようには絶対しない=中国共産党専制の維持・強化」という明確な目標のもとに、軍権掌握をプライオリティーの最上位において、大衆受けする強いリーダーになるべく、自らの政権の権力集中、独裁化をスタートしたわけだ。
※福島香織著『赤い帝国・中国が滅びる日』新刊発売記念、緊急集中連載。
著者略歴
福島香織(ふくしま・かおり)
1967年、奈良県生まれ。大阪大学文学部卒業後、産経新聞社大阪本社に入社。1998年上海・復旦大学に1年間語学留学。2001年に香港支局長、2002年春より2008年秋まで中国総局特派員として北京に駐在。2009年11月末に退社後、フリー記者として取材、執筆を開始する。テーマは「中国という国の内幕の解剖」。社会、文化、政治、経済など多角的な取材を通じて〝近くて遠い国の大国〟との付き合い方を考える。日経ビジネスオンラインで中国新聞趣聞~チャイナ・ゴシップス、月刊「Hanada」誌上で「現代中国残酷物語」を連載している。TBSラジオ「荒川強啓 デイ・キャッチ!」水曜ニュースクリップにレギュラー出演中。著書に『潜入ルポ!中国の女』、『中国「反日デモ」の深層』、『現代中国悪女列伝』、『本当は日本が大好きな中国人』、『権力闘争がわかれば中国がわかる』など。最新刊『赤い帝国・中国が滅びる日』(KKベストセラーズ)が発売即重版、好評発売中。